子供の連れ去りを防ぐ「ハーグ条約」
今や国際化の時代。外国人と結婚する日本人は、年間2万件を超えています。
しかし国際離婚する件数もかなり多く、年間1万件を超えており、日本人同士のカップルよりも実は離婚率がかなり高いのです。言葉の壁、文化、食事、風習、思想・・・離婚原因はさまざまありますが、離婚時に問題となるのは、やはり「親権」です。
近年、どうしても子供の親権が欲しい親による、国境を越えた「子供の連れ去り」が横行しています。
国際的な子供の連れ去りを防ぐ「ハーグ条約」
1970年代頃から国際的な子の連れ去りが問題視されるようになりました。
これを解決するため、1980年のオランダで「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(通称:ハーグ条約)」が採択されました。
ハーグ条約は、国境を越えた子供の連れ去りは子供の利益に反して、どちらの親が親権を持つかの判断は、子供の元の居住国で行われるべきであるとして、元の居住国に子供を返還することを義務付けています。さらに、親と子が国境を隔てて住んでいて、面会できない状況を改善するために親子の面会交流の機会を確保することも支援しています。
ハーグ条約の締結国は、2017年3月現在で96か国で、日本は2014年に参加しています。
ハーグ条約の意義は?
日本は最近まで、ハーグ条約に加盟していませんでした。
条約締結以前は、国際結婚した日本人が自分の子供を日本に連れ去ると、外国に残されたもう一方の親(夫または妻)は子供に会うことができなくなっていました。日本政府が関与して子供の返還を促すこともなかったわけです。
逆に、日本から外国に子供を連れ去られた場合、日本人のあなたは自力で居場所を探し出し、外国の裁判所に返還を訴えなればならない状態だったのです。
2014年に日本も参加したハーグ条約は、これらの問題を解決して子供の返還を促す有意義な取り決めなのです。
ハーグ条約ってなぁ~に?
もしも、パンダさんがいきなり親に外国へ連れていかれたらどう思う?
言葉も変わるの?ぼく英語なんて話せないよ・・・
だから、国と国同士でそれを防ごうという取り決めをしたんだよ。それが「ハーグ条約」なんだ。片一方の親の要請があれば、連れ去られた子供を元の国に戻すように締結国は協力しなければいけないんだよ。
子供が返還されない理由
子供の返還を促すハーグ条約ですが、子供の返還を命じてはならないという拒否できる理由があります。
例えば、アメリカ人のお父さんが暴力をふるって、日本人のお母さんが身の危険を感じて子供と一緒に母国(日本)へ帰った場合とかね。
【返還を拒否できる理由】
- 連れ去られて1年以上経過した後に裁判所に申告されたが、子が新たな環境に対応している。
- 申立人が子の連れ去りが起きた時点に、現実に監護の権利を行使していなかった(連れ去りがなければ、申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く)。
- 申立人が連れ去りの前にこれに同意し、又は事後に承諾した。
- 元の居住国に返還することで、子の心身に害悪を及ぼす、その他耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある。
- 子の年齢が意見を考慮するのに適当な場合に、子が元の居住国に返還されることを拒否している。
- 元の居住国に子を返還することが人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められない場合。
※1・2・3・5は裁判所の判断により認められないケースがある。
ハーグ条約が適用された事例とは?
2014年10月。日本人の母親と日本で暮らしていた5歳の子供が、子供の元の居住国であるドイツに父親によって連れ戻された。
この5歳児は父親がドイツ人で、親子はドイツで生活をしていました。母親が父親に無断で子供を日本に連れ帰ってしまったという。取り残された父親は、ドイツ政府にハーグ条約に基いて子供の返還を求めました。ドイツ政府から日本の外務省に援助要請があり、外務省が日本にいる母親に接触して交渉を開始。話し合いを経て、母親が子供の返還に同意して、母親と子供はドイツへ戻りました。
日本で2014年4月にハーグ条約が発効して以降、日本にいる子供が海外へ返還された初の事例である。
2014年7月。母親が日本からイギリスに連れていった子供にハーグ条約が適用された。
日本人同士の夫婦は別居中であったが、母親が7歳の子供をイギリスに連れて渡り、そのまま帰国しなかったため、父親がハーグ条約に基いて子供の返還を求めた。
イギリス政府は父親への支援を決定して、イギリスの裁判所は「約束した期間を超えてイギリスに滞在させるのは違法な状態」と判断して子供を日本へ連れ帰るよう命じました。
海外にいる子供が日本へ返還された初の事例である。
Q&A
Q, ハーグ条約の対象となる子の年齢は何歳ですか?
16歳未満の子供が対象となります。
Q, 外国人の夫が日本から夫の国へ子供を連れ去ってしまった、どうしたら良い?
外務省が窓口となります。子供が連れ去られた国がハーグ条約締結国であれば、子供を日本へ返還するための支援や面会交流を実現させるための支援を日本や海外の中央当局(外務省)に対して申請することができます。
Q, 夫から暴力されて子供を海外から日本に連れて帰っても、返還に応じなければいけないの?
ハーグ条約は、必ずしも子供を返還しなければいけないわけではありません。返還を拒否できる事由(暴力など)があれば、拒否が認められる場合があります。DV被害にあっているならば、返還を拒否できる相当な事由となるので、拒否できる可能性が高いです。
オハラ調査事務所では、これまでにも海外から依頼を受けてハーグ条約に関する事案で子供の居場所を突き止めて、解決に尽力させていただいております。
中には、お客さまご自身で「子供が行方不明で探している」とWEBサイトを立ち上げて探される方もいらっしゃいます。今どこにいるのか、元気でいるのか。
まずはご相談ください。
【ハーグ条約のポイント!】
- 国境を超えた子供の不法な連れ去りにのみ適用される。
- 父親・母親・子供の国籍は問わない。子供が国境を超えて、不法に連れ去られていれば、日本人同士でも適用される。
- 返還の申し立てだけでは、親権や監護権は決定しない(当事者・代理人の話し合いや裁判所の決定)。
- 日本が条約に参加する2014年より前に発生した事案では、返還命令は適用されない(面会交流は可能)。
- 適用されるのは、連れ去った場所の国、連れ去られた元の国の双方が、ハーグ条約に参加している場合のみ。